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  • 執筆者の写真中山 孝一

Aボール物語 ③

更新日:4月5日

 酒飲みは一杯のグラスに思いを詰め込むロマンチストばかり、何処どこの店での一杯に思いをはせる。かくいう僕もこれまで、赤坂見附のバー木家下の開高マテイーニ、新宿伊勢丹サロン・ド・シマジのマッカラン、銀座7丁目ライオンのサッポロ生、老舗居酒屋では大阪の明治屋、名古屋の大甚、京都の赤垣屋の銘柄不明の銅の燗付器から注ぐ燗酒、バーザンボアのハイボールは大阪、神戸、銀座、京都の各店はさすがに変わらぬ味。古くはラッフルズホテルのシンガポールスリングも微かに記憶に残る。そして、最近小桜の「Aボール」がここに加わった。さらに、これから挑む赤羽丸健水産のダシ割りや浅草神谷バーの電気ブランなどなど、これから味わうであろうワクワク、ドキドキの一杯がたくさん控えている。困ったことに呑兵衛の性分は治らないようだ。


 小桜で「Aボール」を飲みながら、こんなことを思い出した。今から60年前だから小学校の低学年生、ある日、友人の清郎君を学校の帰り小桜に招待した。たまたま店の鍵を持っていたので、普段ありつけないコカコーラでもご馳走しようと思ったのだ。もちろんこっそり忍び込んでの悪ガキの思いつき。しかし、いざコーラを開ける際に二人はためらった。10セントのコカコーラはどうも気が引ける、罪悪感がわいた。そこでカウンターの下にある冷えてないボトルに変えた。栓を抜くと一気に泡がふきだす。「おっとっととー」と大人の真似をしながらショットグラスに注ぐ、ところがあまりの不味さに二人とも吹き出す。味のない炭酸は子供には無理だった。その後、清郎君とは終生の酒友になった。が、4年前肝臓がんでこの世を去った。


 不味い泡盛はコカコーラで割って飲むと美味しくなる。が、コカコーラが高い。そこでヒンスームン(金のない人)は無味無臭の安い炭酸で割っていた。「Aボール」の原点がみえる。あれから時代は大きく変わった。今や、炭酸は泡盛の味を消すどころか、味を引き立たせるためのものになった。あの手この手で酒を飲み続けたジョーグーたちの成果が今にある。酒は歴史とロマンを創る。「Aボール」が、泡盛の歴史とロマンを発信するきっかけとなる日はそう遠くない

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