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時の記念日に

執筆者の写真: 中山 孝一中山 孝一

 ここ数年左手にはめていた電波時計が狂いだした。気候変動のせいか、安物のせいか。空のままの左手がなんだか寂しくなった。そこで次なる時計を考えてみた。別に時間に追われている生活ではないし、時計を必要としているわけではない、が、仕事に追われて時間を忘れていた頃よりも、時間が刻まれることが気になってくるのである。老い先短い心境というものか、時計の針の進みがどうも気になってくるのである。

 あえて気にしょうと時計が欲しくなった。


 時間は正確でなくていい、自分であわせる手巻きの時計がいい、そう考えた。以前だとそんな面倒くさいことをと思っていたはずだが、時間はたっぷりある。ゆっくり時間をあわせる気持ちの余裕もあるはずだ、と勝手にきめこんだ。

 今時そんな手巻き時計なんてあるのか探してみた。ところが国際通りにあんなにあった時計店がひとつもないことに気づいた。山城時計店、鉢嶺時計店、中央時計店、嘉陽時計店、といえば、ローレックス、オメガ、ロンジン、ラドーのスイス直の代理店として全国から客が殺到していたのだが、国際通りから時計屋が消えていた。時が流れた。


「セイコー5(フアイブ)が欲しい」と家人につぶやいてみた。高校入学でお祝いにもらったもので当時の超人気商品だった。自動巻きという画期的な時計だった。腕を振るだけで巻けるというので女子の前でひたすら自慢げに振っていた。

 先日、思いの外ではなく、思い通りにこの「セイコー5」が手に入った。父の日のプレゼントとして子供達からだった。つぶやきが成功した。あの時がもどった。


「人間にとって最も大切な自由は流れ去った時間にはなく流れつつある時間の中にある。」とベルグソンはいった。過去に固執するよりも刻一刻と変化するこの瞬間を大事に生きる。これが最も人間らしい生き方につながるとも

 今日6月10日は時の記念日、いいタイミングで最高の腕時計が手にはいった。

 
 
 

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