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  • 執筆者の写真中山 孝一

放射線発射装置

 去年の8月に食道がんの告知をうけ、9月からの抗がん剤治療、11月の手術と順調にすすみ、その後は思ったより回復がはやく体調もいいので、旅行へ行ったり、テニスをしたり、酒も少々たしなんだり、ということが日常になってきた。これは元の生活に戻ったぞーと喜んだ矢先だった。志願してPET(CTより精密にわかる検査)をうけたところ二箇所に反応がでた。食道がんは転移しやすいと聞いていたので多少の覚悟はできていたが・・・

 医師からは去年のがんの告知と同じく、きわめて機械的な転移の告知を受けた。その後はお決まりのガイダンス通りの治療法の説明があったのに加えてなにやら最新医学の治療法のおすすめもあり、まるで新しい商品のセールスをうけてるような気になった。ところがすでに腹は決まっていた。抗がん剤、手術ときたら、がんの三大治療の残るは放射線だ、これに決めた。その数日後にCTで放射線をあてる箇所をきめ、翌日からはじめた。土日を除くほぼ毎日病院に通うことになる。全部で25回あてるから約1ヶ月半の治療になる。

ここで放射線治療とはどんなふうにするのか後学のために記しておくと

 まずCTで判明した箇所に印をつける。赤色で✖︎のマークを胸の部分につけた後コンクリートで頑丈に囲まれた放射線室に入る。そこにいるのは医師と看護師と放射線技師の3人。まず医師から方法の説明をうける。ここからは何があっても自己責任だからと言わんばかりの口調だ。その後3人は別室に消える。医師と看護師はガラス越しの部屋から指示をするようだ。放射線技師は物々しい宇宙服のような防護服に着替えて現れた。両手にはバズーカ砲のようなものをかかえている。そして、ぼくは両半身裸になり目隠しをされ部屋の奥の壁の前に立たされ両手両足を固定された。何かおかしいと気づいた。

 放射線治療とはMRIのような機器に入って照射されるものだとばかり思っていた。ところがこれじゃまるでテロリストの処刑のようだ。時代錯誤も甚だしい、半信半疑どころか到底信じ難い。まってくれー!といったが、嗄声で声がでないしこの不自由な状況はどうすることもできない、されるがままだ。

 壁の位置から約6メートルほど離れたところで放射線技師が射撃の時の膝立ちの姿勢でバズーカ砲(これが放射線発射装置だった)をこちらに向けて構えているのだ。

 そして、別室の医師がマイク越しに「これから治療をはじめる、用意!」という指示を出した。すると放射線技師が装置をかまえぼくの胸の✖︎マークに狙いをつけた。そして

 

 医師の「撃て!」の合図で約10秒間、息を止めた状態で照射をうける。放射線はからだには何の反応もないが、ぼくは全く身動きが取れない、動けば他所に照射される。技師も的を外すことはできない、もし装置の重さで銃口が下に向けば下腹部にあたる。そうなれば大変だ、物が役に立たなくなる(すでに立たないが)。両者とも緊張をゆるめることができない、まさに阿吽の呼吸が必要だ。医師は叫ぶ「がまん、がまんしろ!」と、看護師は叫ぶ「二人ともがんばって!」と、こうしたドラマが10分ほど繰り返され終了となる。身も心もヘトヘトだ、これが明日から毎日続くのかと思うと気が萎えてきた。と、その時

「ごはん、できたよー!」の声で目が覚めた。夕方からうたた寝していた、夢だったのだ。年寄りと病人は妄想のかたまりというが御多分に洩れずということで。ちなみに前半は事実です。毎日普通の放射線治療を真面目に受けております。

 


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