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  • 執筆者の写真中山 孝一

小桜十夜 <アン=マーグレット>

更新日:3月13日

 小桜の二階への急な階段を上がると真正面に押し入れがある。建て付けの悪い開戸をあけると左手にフリルで囲まれた一枚の写真が貼られている。1960年代に活躍した人気女優アンーマーグレットの写真を月刊芸能誌から切り抜いたもので(明星、平凡はまだなかった)、60年前からある小桜の秘蔵物のひとつ。当時の小桜は男性の板前と数人の女給がいた。営業が終わると宴会場だった2階が寝床になった。離島や山原からの出身者が多く、皆住込みで働いていた。中学を卒業した女子が大都市那覇にボストンバッグ一つ持ってやってくる、家財道具はバッグ一つだけ、それを押入れにしまいこむだけ、そんな時代だった。小桜でもそうした女子が入れ代わり立ち代わりやってきた。そんな少女らが芸能誌をかざる女優らの写真に自分の夢をのせた。その名残をそのままにしておいたのがアン=マーグレットの写真、アメリカが誇る大女優だった。


 田舎から出てきた少女がいきなり海の向こうの大女優にあこがれるとはさすが沖縄と思われるが、小桜の向かいには沖縄一でかい映画館、「グランドオリオン」があった。ここは洋画専門の映画館で新しく上映されるごとにポスターを宣伝用として店内に貼っていて、その見返りにチケットが何枚かもらえるという特典があった。だから外国映画は普段から身近にあったようだ。日本の男優で人気があったのは石原裕次郎、小林旭、赤木圭一郎らで、昔のギャルたちがキャーキャーいってたのを小学生の時の記憶としてある。

 

 時代背景は変われども何かに憧れるという心情は今も昔も変わるものでは無いような気がする。その頃の少女は現在80代、いまだに何かに憧れ続ける老女へと変身している。 



 

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